小倉昭和館 再建
北九州市小倉北区、旦過市場に創業83年の単館映画館があった。35ミリフィルム映写機から映し出されるむかし懐かしい映画はもちろん、今では珍しい2本立ても上映され、その上映の間では女性館主が自ら焼菓子やコーヒーの売り子をする姿がこの映画館の名物シーンでもあった。通りの古き良きバラックな雰囲気を灯すネオン看板は、市場のみならず街のアイコンとなっていた。
そんなある日のこと、作者は館主から相談があると呼ばれた。「ロビーにバーカウンターを作って映画にちなんだお酒や軽食を提供したい。それを市場から仕入れて、映画館のお客様に映画も地域も感じて頂ける社交場になれば。」と相談を受け2022年8月にロビーで打合せ、既存の建物の図面資料を借りたのである。
その2日後、50店舗を超える旦過市場の大規模火災でこの映画館は全焼した。通りを永らく灯したネオン看板も焼け落ちていた。
全焼から約2ヵ月後、館主から連絡があった。「もし再建する場合、予算や日程はどうでしょうか。見込みは薄いが再建できるならしたい。街の皆さんが望んでいます。」ということだった。全て焼けてしまったが火災の2日前に以前の映画館の図面を預かっていたことに運命を感じずにはいられなかった。
以前より規模を小さく100坪に絞った。地主の決意も大きく、再建プロジェクトがスタートした。ありとあらゆるメディアが取材しプロジェクトの進捗は全国に流れた。地元からはもちろん、数々の著名人からも応援の声や寄付までも届く。以前は木造だったが耐震性、耐火性を考えRC造にて計画を進めることで設計として難点があった。以前の映画館は木造ゆえの手触り感や親しみ、歴史を経た愛着があったが、RC造になるとそれらの表現が難しい。新築だが“まちの映画文化のリノベーション思考”が必要だった。そこでコンセプトを「在り続けるということ」と定めた。
厳しいスケジュールの中、翌年4月着工。運営はあらゆる場で上映会やイベントを開催し発信を続け、同年12月、無事に再オープンを果たした。通りには新しいネオン看板が明りを灯し、火災現場から引き揚げられた以前のネオン看板がロビーを彩り、新設されたバーカウンターには人々が憩う。35ミリフィルムの映写機も復活。「在り続けるということ」。再建を果たしたあの日、人々が流した涙はまちの歴史の1シーンとなった。